「ノーサイド!」の生観戦

 スポーツはほとんど英国生まれであるが、やるのは大変で見るのは楽しいスポーツがある。 ラグビーである。 正式にはラグビーフットボールである。 正式名称からするとフットボール(足のボールゲーム)は、サッカーのように思える。 サッカーは手以外の体を使ってボールを前に進め、ゴールに運ぶボールゲーム。 ラグビーは手を使ってボールを前に進めてはいけないが、持って前に進めることができ、ゴールライン内の地面に置くボールゲーム。 二つのフットボールに共通する興味深いのはオフサイドというルール。 サッカーでは、ボールが蹴り出される瞬間で、キーパー以外の守備の選手よりも攻めているゴール側でプレイに参加してはいけない。 前にいる選手は“石”なのである。 ラグビーはボールよりも前の人は“石”、“石”がプレイに参加すると反則となる。 サッカーでは防御側のラインが、ラグビーでは攻撃側のラインが重要である。 特にラグビーはボールを挟んで敵味方がはっきりとラインを作るため、そのラインが相手ゴールラインに近づくことを楽しむことが醍醐味のはずである。 高校の体育の授業では、体のぶつかり合いやスクラムは省略したルールで行ったが、ボールを持った人は前に蹴り、残りの蹴った人よりも後ろにいる人が走るという形になってしまった。 ラグビーの醍醐味とは程遠いが、ある意味ではフットボールである。 私は中学までは野球少年だが、テレビ放送が重なると野球よりもラグビーを見るくらいのラグビーファン。 ただ、生まれて69年間、ラグビーの試合を生で見たことがなく、本当の意味ではラグビーの醍醐味を知らない。 

当時は、学生の早明戦および関西の雄同志社、社会人ラグビーも、新日本釜石、神戸製鋼など人気チームは多かった。 その後は、日本では人気だが、世界戦では大差で負け続け、スタープレイヤーが引退したこともあり、また、何となくルールや反則がすべてカタカナでポピュラーにはなれず、その上海外選手を登用した新興チームの台頭などもあり、私の中では下火にならざるを得ない時期が続いた。 その後、テレビドラマの「ノーサイド」という言葉が流行り、ワールドカップでの快挙が続き、強豪国の選手が参加したプロリーグ「リーグワン」ができた。 私は「殻の外」の暮らしになり、やりたいことはやっておきたいという気持ちもあり、プロリーグ観戦に出かけることにした。 チケットぴあ程度は経験があるが、ラグビーチケット販売のHPで無料のログイン登録、チケット予約を行い、コンビニの発券機のような機械で手続きを行う。 慣れない操作で後ろの若者が覗き込む。 迷惑をかけまいと焦る。 レシートみたいな紙をレジに持って行き、やっとチケットを手にした。 最近このシチュエーションはよくある。 まだ若いとやせ我慢か、周りを気にしながらか対応が難しいのだが、胸を張って言いたい! 初体験は、若者、高齢者にかかわらず、誰でも戸惑うはずである。 

当日の朝は雨、東京は午後から雨は上がる予報である。 目指すは神宮外苑の秩父宮ラグビー場である。 JR常磐線で新橋まで直通、早めの昼食の後、地下鉄銀座線で神宮前に向かった。 外苑前下車で競技場に向かうのは何年ぶりだろうか。 不安な気持ちではあったが、電車内で白いおにぎり屋のレジ袋を持った体格からして如何にもラグビー経験者の様な中年男性を見つけ、着いていくことにした。 何も考えずに後について改札を抜け階段を上る。 案の定である。 労せずして秩父宮ラグビー場に到着した。 ラグビー場のお隣は神宮球場で、この日は六大学野球が開催されておりにぎやかである。 リーグワンというプロリーグは終盤戦、一位の東芝ブレイブルーパスと七位のキャノンイーグルスのゲームである。 ブレイブは英語で「勇敢な」、ルーパスはラテン語で「オオカミ座」で、オオカミのように組織的な体制を意味するらしい。 私はBtoB(会社間の取引)重電の東芝よりはBtoC(消費者向けの取引)のキャノンの方が親しみがあり、バックスタンドではあるがキャノン側のシートを予約していた。 予報通り雨は上がっていたが、分厚い曇り空で競技場は昼間にもかかわらず照明が点いていた。 それが余計に緑の芝と選手たちのユニフォームが鮮やかでさっそく感動した。 ここで一句。 「シート拭き歓声に融く(とく)春雨(しゅんう)明け」 想定通りシートには雨粒が残っており、用意してきたタオルで拭き取り、周りを観察しながらの慣れない観戦スタートであったが、徐々に歓声に飲み込まれて、プレイに引き込まれていった。 ブレイブルーパスのホームゲームのようで場内放送はブレイブルーパスびいきで応援を催促する。 「ブレイブ、ブレイブ、ブレイブルーパス、アオ~~~」最後の「アオ~~~」はオオカミの遠吠えの真似である。 最初はそれはちょっとやりすぎと違和感があり引き気味だったが、ゲーム終了間際では、会場中が遠吠え状態になっていた。 言いたくなるのである、キャノンのシャツを着た観客も…。 遠吠え効果! すごい仕掛けである。  

バックスタンドということもあるが、両方のファンが入り乱れている。 私の前の席の老カップルは、別々の応援のようである。 ただ、競技場全体が、ひいきのチームの前にラグビーの応援をしているようである。 テレビでは味わえない観客の声は楽しい。 「お兄さん、なんで動かないの?」、「今のは痛いよね、かわいそう!」、ゴール前の防御に「耐えろ!」などの声が聞こえる。 甲子園球場の観客の受け狙いの声よりも楽しい。 スピードのある走りやキック、ラインの手薄なところを突いての突破シーンなど、ものすごい歓声が響く。 わかりにくいルールも場内放送では、「今のはイーグルスのノットリリースザボールの反則、倒れた選手はボールを離さなければなりません」などと解説付きである。 膝をついた選手は“石状態”になる。 キックが多くなるとキック時ボールより前にいた選手は“石状態”でプレイに参加できず、怠けているように見える。 逆を言えば、“石状態”の選手が如何に速やかに“石から生き返る”かを競っているのかもしれない。 プレイに参加できる選手の数が目まぐるしく変わる。  理屈ではわかっていることを目の当たりにする。 管理職の頃仕事をラグビーに例えてよく使ったフレーズがあり、「次の人にすぐパスをするのでは、いつまで経っても1対1の構図は変わらない。 まず目の前の相手にぶつかり、二人・三人のマークを引き付けると、フリーになる味方が出てくる。」  まさに、複雑なルールを守りながら、ぶつかり合う「ボールゲームでの格闘技」を展開する。 
ゲームの終盤では点数差は生じるが、1プレイ毎の真剣勝負は最後まで楽しい。 そして「ノーサイド」で握手し合うのである。 主催団体、チーム、選手、観客、あらゆるステークホルダー(関係者)の一体化を見たような気がした。 プロ野球の半額以下の料金、1万人の満足そうな顔を見ながら、競技場を後にした。 ルールを守らず、到底真剣勝負とは思えないような居眠りの議場、国民の声よりも党略優先、では関心も薄れ、未来への期待も持てないのである。 ここにロールモデル(模範的な姿)があるのである。 日々の生活でもこのような真剣なぶつかり合いと、「ノーサイド」の爽やかさがあれば、どんなにか心地よい毎日になるだろうか!


コメント

  1. 匿名5/31/2025

    平尾誠二さんが、Myヒーローでした。かっこよかったなー!(^^)!プレイもその後の生きざまも・・病気で早世されて残念でしたが、彼の真剣に向き合う生きざまは、焼き付いています。
    政治の世界にこのような真剣さが降臨するには、60歳以上を一気に引退させる法律が必要かな!バカヤロー、貴方に同感です

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